大人になれるまで

白い円と申します

小さな悪魔

大学生の頃に書いた文章です。よかったら読んでね。多分睡眠薬飲み始めて間もない頃のものだと思う。

 

 小さな悪魔

私は毎晩、睡眠薬を飲んで眠りについている。

今の私は睡眠薬なしにしては眠りにつくこと自体はもちろんのこと、1時間以上睡眠を継続させることすら困難なのである。睡眠薬がないと生きていけない。これはもはや睡眠薬中毒といってもよいだろう。なので私は毎晩眠りにつきやすくする為の薬、そしてそれを持続させる為の薬、それに加えなんだかよくわからないが気持ちを安定させるような作用を持った薬を服用している。


表題に示した「小さな悪魔」という言葉だが、これは決して睡眠薬そのものを指す言葉ではない。

小さな悪魔とは、「睡眠薬を飲んでもなお寝ずに起きていよう」と考える私の小さな心のことなのである。その通り、私は睡眠薬を服用してもすぐに布団に入るなんて優等生のようなマネはしない。睡眠薬が効いてきてもなおこうやって文章を書いたり音楽を聴いたりしようと試みてしまうのである。

当然、その行いの全てはうまくいくことがない。薬によって催眠状態にかかっているうえに筋弛緩作用(筋肉をやわやわにする作用)によって手も足もいうことをきかない。トイレに行こうとして廊下に倒れ込むことなど日常茶飯事だ。

ああ、また倒れてしまった、またお茶を零した、ああ、ああ、ああ、...。こうして毎晩「知らずのうちに」眠りにつくのである。

 

眠りにつけるのはいいことだ。しかし、決まってその後に恐ろしい瞬間が訪れる。それは翌朝、目を覚ましたときだ。まず目を開けて、薬の抜けきらない、だらりとした身体を起こしてみてぎょっとする。机の周りがスナック菓子にまみれているのだ。

いったい何があったというのか。

次に、携帯電話を見て血の気が引く。送った覚えのないめちゃくちゃなメッセージが送信履歴に何件も残っている。あわてて詫びのメッセージを送信する。私は睡眠薬を服用していることを公言していない(している人の方が少ないか)ので、何かまずいクスリでもやっていると思われていないかとヒヤヒヤする。

メッセージを送った全員に詫びに詫び、ようやっとのそりと起き上がる。床に散らばっ
たスナック菓子をつまんで片付ける。どうもおかしいことに、大量の菓子の破片は見つかるものの、スナック菓子本体の袋が見つからない。ゴミ箱にも入っていない。どこにいったんだろうか。ま、まさか異世界にワープしたのか?それともベランダから落としたか...。こんな文章を書いている最中にも睡眠薬はじんわりじわじわと効果を示してきている…。

………

ああ、ああ、ああ、今日も負けてしまうんだろうか、この小さく意地の悪い悪魔に。思い返してみればこいつに一勝もしたことがない。
完敗だ。
それでも私はこうやって毎晩睡眠薬と自分を闘わせて遊んでしまうのだ。なんて無邪気

な。私の中のもう一人の無邪気な私がカカカと笑っている。ああ、今日も負けか。

 

 

ワープしたかと思われたスナック菓子の本体は、翌日冷凍庫から発見された。