大人になれるまで

白い円と申します

20歳の私と26歳の男

トイピアノとブロン持って京都へおいで」

 

その言葉につられてのこのこと京都駅へと向かった。

 

黒いワンピースに黒い靴、黒いリュックに黒髪のボブで
あの人は黒いコートに黒いズボン、黒い靴に黒い鞄を身につけていた
どっちがどっちだかわかりませんね」
そう言って笑いながら鴨川へと歩いた
近くの和菓子屋で饅頭を買って河原で食べた
あの人はタバコを吸っていた
今でも覚えている アメスピの黄色

団地好きなんですよね、団地を見ましょう
私が言うと、いいよと笑った
団地にあるお地蔵さんをセーブポイントと呼んでいて
異文化だ、と感じた

 

敷地内の公園でブランコを漕いでいるとあの人は携帯を取り出して
ヤマト運輸から荷物取りに来いってメールが来てる、家に帰ってもいい?」と言った

こういう手口なんだ

というか言い訳下手じゃない?

 

 

いいですよ、と言ってみた

 

 

電車を乗り継ぎ、家へ向かった

 

部屋はびっくりするほどに真っ黒だった

 

座布団とかないし、ベッドにでも座ってと言われ、言われるがままに腰掛けた

あの人はデスクについた

デスクの上はパソコンとスピーカーと薬入れの小皿と灰皿

とてもシンプルだった

 

そこから何を話したのかはわからない

ただ私が途中でどうしていいかわからなくなってブロンを飲んだのは覚えている

 

気付いたらあの人が私の後ろにいて 私の腰に手を回していて そのまま抱きしめられてキスをした

「好きでもない人とキスしちゃうの」と言われた

 

そこから先のことは書いてもいいんだろうか いやもう既に書いちゃいけないライン越えてるんだが

 

そういえば行為の前に避妊具がないとか言ってファミマに買いに行ったな

なんであの時あんなに一緒に行きたがったんだろう

これからヤりま~すみたいな感じで嫌だったのに

 

「毎日のように違う女連れてくるから店員にも変な目で見られてる」って言ってたのに

 

この後はもうなし崩し的に 儀式的に行われたように覚えてる

 

あの時の微かに夕陽が射し込む薄暗い部屋の空気が忘れられない

 

気付いたらもう夜で これから大阪に帰るのは時間的に無理だという話になった

泊まっていきなよ、と いや初めからそのつもりやったやろと思うようなことを言って笑っていた

 

あの人はよく寝ていた なんなら枕がよだれでベタベタになっていた

 

翌朝、あの人は頭が痛いからロキソニンを飲みたいけどその為にはなんか胃に入れないと、と言ってパスタを作り始めた

 

薄いだし味でオクラの入った謎のパスタ

それなんですかと訊くと まずいパスタ と言ってたっけ

 

昼頃 そろそろバイバイしようかということになって駅まで歩いた

駅が見えてきた時、電車は既にホームに着いていた

あの人が突然私の手を掴んで走り出した

その瞬間、比喩とかではなくて 本当に世界がスローモーションになった

こういうことってあるんだと思った

これ忘れようとしても一生忘れられないんだろうなと

実際忘れられていない 何度も記憶から消そうとしたのに

ふとした瞬間にあの路地のことが頭をよぎる

 

 

自己プロデュース能力に長けていて芸術的な才能があって容姿に恵まれていて冷静で頭が良くて それでいて少年のような無邪気さを持ち合わせた不思議な26歳だった

あの人は長生きするんだろうな