大人になれるまで

白い円と申します

同い年の彼

 

『円ちゃん、何しに東京まで来たの』

「あなたと…えっちするために…きました…」

 

 

令和三年GW、緊急事態宣言の最中、私たちは合流して即 鶯谷のラブホテルへとなだれ込んだ。

夫と「最後の遊びって言ったら変だけど、お互い違う人ともしてみようか」という話になっていたのだ。

 

 

「シャワー浴びさせて」と言うと『このまま』、と。「せめて歯磨かせて」と言うと、ベッドに押し倒された。

 

 

身体の相性は最悪だった。

彼は一度も果てられず、私は彼の大きすぎるモノを入れられた恥部を痛めていた。

 

 

『ちょっと待って、ダウナー入った』

そう言って彼が布団に突っ伏す。

 

これはまずいと思い、慌てて自分のデパスを一錠唇に挟んで彼を仰向けにした。

 

「舌出して」

 

 

二人の舌と舌の間でゆっくりと溶けてゆくデパス。0.5mg錠とは思えない程の効き目を覚えたのは気のせいではない。心配と興奮が入り混じり、甘さを感じている場合ではなかった。

 

 

デパスキスなんて、どこで覚えたの、誰にやられたの』

「即興」

 

信じてもらえていないのだろうが、本当に咄嗟に思いついたことだったのだ。

 

 

朝9時にフリータイムで入ったのに時が経つのがいやに速く、18時のチェックアウトに間に合わせて急いで準備をした。

 

 

彼の家は6畳一間の狭いアパート。

玄関を開けて彼が笑う 『見て』

 

 

足の踏み場がない

 

 

物をよけながら部屋の中央へ辿り着く。布団を敷いてもらって横になる。

 

 

彼はよく寝ていた。普段は不眠が強く満足に眠れないそうなのだが、私のように心を開いた人の前では眠くなるとのこと。

 

 

次の日、布団の中で延々とお喋りをしていた。あの時間が一番楽しかった、と後から言うと俺もそうだったよと返してくれた。

 

 

 

次の日高円寺で約束があるし、前乗りで高円寺のホテルに泊まろう、となり、タクシーで高円寺へと向かった。

 

 

ホテルに入り、シャワーを浴びる。

 

事が始まって数分経ったところで彼が「ああ」と言って項垂れた。

 

並んで横に寝転がってどうしたの?と頭を撫でる。

 

『わかった、円ちゃんさ、俺が大学の時一目惚れした娘に似てるんだよ』

 

 

 

『傷の舐め合いでもする?』

 

それからお互いの昔の辛かった恋愛話・家庭環境の話になった。

 

私は幼い頃から悲しい事や悔しい事があって泣いていると親に物理的に叩かれていた。その為泣きたくなったらトイレに篭って服の袖を噛む癖がついた。幼少期の服の袖はみなぼろぼろになっていたと思う。

 

 

 

『俺のこと、叩いていいよ』

 

 

「大好き 大好き 大好き 大好き」

そう泣き叫びながら彼の頬を全力で叩きまくった。

 

『親御さんも大好きって言いながら叩いてたの?』

「大好きなんか、言われたことないよ」

 

『ちょっとはスッキリした?』

「親の気持ち考えてもうて、余計苦しい」

 

 

 

 

次の日、別のフォロワー2人と一緒にシーシャを吸いに行った。私はシーシャが大好きなくせに並を一本まるまる吸えない為、彼と半分こにしてもらった。店内は薄暗く、小上がりの座敷に敷き詰められた人をダメにするクッションでチルアウトしていた。

2時間が本当にあっという間に過ぎた。

 

 

 

解散して、彼の家に戻る。

 

『円ちゃんさあ、ツイッターでもグループラインでもあんまりそういうこと言わないけど、意外としっかり壊れてんね』

 

 

自覚したくなかった。なんで、なんで、そんなことを言う?なんで、、、

 

涙が止まらなくなった。夕方の町内放送のメロディ。遠くに聴こえる子供の声。すぐ横で眠っている彼の寝息。全てが辛くて苦しくて、号泣しては過呼吸を起こし、また泣いて過呼吸を起こして………。これは本当にいけないことなのだが、その辺に転がっていたソラナックスを大量に飲んだ。それでも止まらない涙と過呼吸

 

 

『お姉さん、今晩帰る予定だよね?こんな状態で帰れると思う?』

「無理」

 

 

結局、石川県に住む夫に車で迎えに来てもらうことになった。本当に申し訳ない気持ちになった。

 

その日は比較的早い時間にソラナックスで眠ってしまい、明けて2時に目が覚めて、軽めの眠剤を飲んでまた眠った。

 

 

朝になり、夫が彼のうちの近くまで着いたと連絡が来た。

荷物をまとめて外に出る。

 

少し歩いたところで彼がマスクを外して

『最後』

と言い、キスをした。

 

 

彼とは性行為の相性は最悪だったが、キスだけは何故かやたらと気持ち良くて、布団にいる間話している時以外はずっとキスをしていた。

 

 

夫の車を見つけ、ありがとうと伝え、乗り込む。

彼が「すみません、よかったら。お車代です」と封筒を渡してくれた。

 

 

東京に来るのは人生で2回目だった。3日間、泣いたり笑ったりと忙しかったが、なにもかもをひっくるめると、楽しかった、に分類されるように思った。