大人になれるまで

白い円と申します

敗者である

朝目が覚めると窓の外に黒い何かが渦巻いていた

 

ごおおお、ぎゃあぎゃあ、わうわう、などと音を立てながら

 

「逃げなきゃ」

そう思ったが身体が動かない 黒い何かがのし掛かって、羽交い締めにされている

 

たまらず夫にメッセージを送った おーい、ねえねえ、と呼ぶことさえできなかった

「きょうはもうだめだ」

「おそとがこわい」

 

夫が駆けつけてきて「今日は仕事を休んで、うちでゆっくりしてて」と言った

 

「おそと、すごくうるさいね」と言うと、夫はゆっくりと

 

「何も聞こえないよ」と言った

 

 

その後少し眠り、職場に休む旨を伝えるために電話をかけようとした

 

なぜか、発信ボタンが押せない

 

仕事場では毎日40件ほどの電話を取っているのに、たった一回電話をかけて「体調が悪いのでお休みいただきます」の一言を言うことができないのはなぜだろう

 

 

この世は体調が悪い人向けにカスタムされているわけではない

 

体調が良い、ということが社会で生きるための大前提なのだ

 

そういった意味では 私は20歳で精神病にかかった時から 負け続けている

 

敗者なのだ

 

何をどうやっても、体調が良い人には勝てない

 

どれだけ頭を使おうと どれだけ知恵をつけようと 勝てないものは勝てないのだ

 

悔しさはない 戦うことなどとうに諦めた

 

 

おそとが静かになったので、チョコレートを買いに薬局へ行った

 

幼い頃、お腹が痛いと親を騙して学校を休んだ日の匂いがする

 

こんな罪悪感 一体いつまで味わうんだろうか